Tactical Listenism -戦術的環境音聴取-

hazuki ota
Jun 24, 2021

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私たちは都市の音をどのように意識し、聴取しているのか。
何を聴取しているのか。
どのように聴取することで、何を聴取しているのかが視えてくる。
私(たち)は何を聴きたいのか。何を聴くべきなのか。
私(たち)は煩雑化していく音環境に無意識に耳を閉ざし、
このまま受け入れて良いのだろうか。

環境音は日常である。環境音には人が発する音、環境が発する音、人工物が発する音がある。それらが混在する環境を都市環境音と捉える。

都市環境音は公共のものであると同時に、耳を塞ぐ以外に個人が所有せざるを得ない特徴を持つ。しかし視覚情報で溢れる特徴を持つ日本の都市空間は、聴覚文化の衰退をもたらしており、一個人が何を騒音と捉え、何をそうでないかと思考する過程を経る前に、定量的に行政による政策が働いている。

かつてRaymond Murray Schaferがサウンドスケープを唱え、一人一人が提起していく事で、都市環境音の所有を認識し、都市音環境をボトムアップに変化していく事が出来るのではないだろうか。私(たち)がどんな音を鳴らし、環境がどんな音を立てているのか再認識し、取り巻く環境を再考していく必要があるのではないだろうか。

Tactical Listenismは音環境に対する傾聴行為を遮断・喪失しつつある私(たち)に、実際に都市の音に耳を傾け、より深くサウンドスケープを聴取できる姿勢を促し、歪みを問い直した新しい環境の姿を模索していく。

トップダウン型の指導
-環境音の現在と対策-
騒音という認識は各々の主観的な音の感じ方によって様々であり、個人単位で音受性の差異が生じるものである。騒音は「典型 7 公害」と言われ、「環境基本法」において公害として定義されているもの。特に騒音問題は現在社会問題であり、「典型 7 公害」の中でも苦情件数は5年連続で第一位を占める。

総務省HP[https://www.soumu.go.jp/kouchoi/knowledge/report/kujyou-30_index.html]

公害とは様々な認識や定義で捉えられるが、「環境基本法」により定義される公害とは、事業活動その他の人の活動に伴って生ずる相当範囲にわたる大気の汚染、水質の汚濁、土壌の汚染、騒音、振動、地盤の沈下及び悪臭によって、人の健康又は生活環境に係る被害が生ずるものとされ、 騒音公害の定義のみ取り上げれば「一般には、不快な音、好ましくない音」とのみ定義されている。一方、日本国における騒音を法的整備した「騒音規制法」11の第 1 条には、「この法律は、工場及び事業場における事業活動並びに建設工事に伴って発生する相当範囲にわたる騒音について必要な規制を行なうとともに、自動車騒音に係る許容限度を定めること等により、生活環境を保全し、国民の健康の保護に資することを目的とする」と定められているように、同法は、建築や工事場所などで発生する大きい工音をデシベル(dBA)で規制する法律となっている。このように「騒音規制法」は、事業に伴い発生する生活に支障をきたす音の削減を目的としたものであり、音環境の包括的解決といった目的で制定されたものではないことが分かる。

ノイズキャンセリングの普及
イヤホンやヘッドホンにおけるノイズキャンセリングという技術は音環境を個に収束するアプローチと言える。ノイズキャンセリングはあくまで音楽をより純度の高い状態で鑑賞するための技術であることは確かだが、これは逆説的に現代の音環境が音楽の聴取領域をも侵していることを示唆している。ノイズキャンセリングという要素を除いても、イヤホンやヘッドホンの普及は音楽鑑賞の幅を広げると共に、煩雑化した音環境と個人とを遮断するアプローチの一端となったと考えられる。

こうしたアプローチは確かに現代の都市環境の音の増加に対して必要不可欠であるが、一方で、音害に伴う頭痛や吐き気などに悩まされる人々や音嫌悪症(ミソフォニア)を発症する人も少なくない。また、煩雑な都市音環境下では、ヘッドフォン着用に伴う交通事故も発生している。サウンドスケープ・デザインを社会あるいは地域共同体を最小単位とする根本的解決とするならば、それは個人を煩雑な音環境から守る身辺的解決にもなるという事が出来る。以上から、個のレベルの音を増強するのではなく、個を取り巻く環境を含めた総合的なアプローチが必要になるのではないだろうか。

ボトムアップ型の戦術的介入
-Tactical Urbanism-
タクティカルアーバニズムは、デザイナーや建築家主導の現代の都市計画によって生じる問題に対して、民間レベルで小さなアクションを起こし、地方自治体や省庁を巻き込みつつ、長期的には法律や都市計画への変革を誘導するための活動である。アンリ・ルフェーブルの思想やシチュアシオニストたちの実践を前提としながら、ニューアーバニズムと同様、市場的合理性一辺倒の都市開発、都市形態に対する批判的な思想を基調とするが、その活動はボトムアップ型の身体スケールでの小さなアクションという点が重要である。タクティカルアーバニズムは2000年代後半のアメリカ西海岸発祥の活動であるが、その事例をまとめた書籍や具体的な実践方法、ツール制作のためのデータまでもが積極的にオープンソース化されていることから、全世界的にもその活動が流布している。

-Sonic Urbanism-
2000年代以降、タクティカルアーバニズムを系譜し、都市への音的介入をしていくSonic Urbanism[Theatrum Mundi]が存在していく。Sonic Urbanismとは音と空間の両方に携わる学者やサウンドアーティストが集まり、都市計画がサウンドスケープを超えて、音環境と人がどのように関係しているかを探り、方法や考え方をその都市計画に組み込むことができないかと議論を展開している。都市デザインの基本的な前提となっている視覚文化に偏った認識論に挑戦する活動であり、都市の音を聴取すること、採譜すること、演奏することなどのプロセスを用いて実践していく。2018年には、Theatrum Mundi と &beyond はSonic Urbanismに関する出版物を発表している。

以上あげたような背景や実践の整理を踏まえると、行政指導によるトップダウンの騒音規制は、音環境を改善していく最善策と言えるのだろうか。今まで築いてきた都市や環境が複雑化していく中で、音環境はこれからもより煩雑化していくといえるだろう。そのような音環境に住む私(たち)は、戦略的な行政指導に期待するのではなく、自らの手で、戦術的に音環境を作っていくことが今後重要となってくるのではないか。戦術的に環境音を聴取する行為(Tactical Listenism)は社会あるいは地域共同体を最小単位とする根本的解決とするならば、それは個人を煩雑な音環境から守る身辺的解決にもなるという事が出来る。

現段階でこのプロジェクトで制作している作品は以下である。

-Urban Sound Tool-
Urban Sound Toolは都市空間の音に集中するための音響フィルターである。小さな入り口を被ることで拡大していく音環境は調和的な響きを加え、都市環境音を捉えおなし、都市を聴く際の音楽的な姿勢を促すツールとなっていく。実都市にインストールしていく中で、都市空間の既存の音響特性・デザイン要素をリサーチし、戦術的な環境音聴取を模索していくツールである。

prototype03

-Urban Sound Room-
Urban Sound Roomは、煩雑化した都市の音環境に対してより深くサウンドスケープを聴取する姿勢を促す空間「移動式都市の音室」を設計。小さな入り口は、音を深く聴取するためのは、都市の音そのものを聞き、浸るための補助線となっている。本作品は、あらゆる場所に実際にインストールし、戦術的聴取した際に都市そのものの音を耳にし、これまでとは違う都市の輪郭が浮き上がらせる空間作品である。

今後は作品制作に加え、都市へ介入することで見えてきた日本の公共空間のルール/問題なども含め記録していく。

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